忘れないヨ・・・


 [8]   もも と里親の物語
 
 
 ももの故郷であるアーク(アニマルレフュージ関西)の季刊誌 AUTUMN 2003 NUMBER 51(→です) に、私の下記の手記が掲載されました。
 もう1枚は、リードとハーネスで重装備のもも。
 
 
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スペシャル(もも)と里親の物語
 
 もも(スペシャル)をアークから里子にもらって9ヶ月が過ぎました。その時からの最大の目標だった「アークへの お里帰り」を今年4月にする事が出来ました。
 
 ももは、オリバーさんに連れられて昨年7月15日に飛行機で我が家にやってきました。左前脚が不自由な生い立ちからか強度の恐怖心と警戒心を持っており、もものために用意したスペースはもちろん、犬小屋から一歩も外に出ようとはしませんでした。私達夫婦が触れることさえ許そうとはせず、フードも私たちが見ていると食べませんでした。真夏の炎天下、小屋の中の気温は相当なものだと思いますが・・・。
 2週間が過ぎた時、「小屋から出してみよう!」と中に入って無理矢理ももを外に押し出しました。ももは恐怖心からか鉢植えなどをなぎ倒し、扉をこじ開けて逃走しました。私達は大急ぎで追いかけましたが、たちまち見失ってしまいました。近隣を探して待ちましたがとうとうその日は帰ってきませんでした。
 
 翌日から本格的な捜索活動を開始しました。新聞の広告掲載、ビラ貼り、警察・保健所・近隣市町村、有線放送、電力会社の検針員、新聞配達・牛乳配達の方々への依頼、等々。専門の方に「帰巣本能」でアークに帰ろうと大阪に向かっているかもしれないとも言われ、捜索範囲が途方もなく広がっていました。あとは「必ず帰ってくる!」と信じるしかありませんでした。
 逃走から5日目の夜「うちの庭に・・・」と連絡を受け急いで行ってみると、まさしくももがそこにいました。私は感激で震えていました。一番に無理矢理犬小屋から出した事を謝りました。でも、触れようとすると逃げてしまいます。その繰り返しの末、私は意を決して抱きかかえました。でも、自衛本能でしょうか、ももは私に牙をむいたのです。それにも負けず放さなかった私は、咬み続けるももに遂に負けてしまいました。タイミングの悪い事に主人はこの日検査入院中。おまけに、そのお宅は高齢の女性の一人住まい。私は次第に意識が薄れる中、警察に保護を頼みましたが「お宅の飼い犬でしょう?」と相手にされず、私はももが逃げないよう門を閉めておいてくれる事を頼んで、救急車を呼びました。手術後 家に戻れたのは夜中の2時。逃走時からお世話になっていた専門の方に連絡をすると、有難いことに「朝一番に行きましょう!」と言って下さいました。私はももが逃げ出してないかと心配で一睡もできませんでした。早朝、その方は安心させるためにと子犬を同伴しており、見事にももを保護して下さいました。
 
 こうしてももは我が家に帰ってくることが出来ました。幸いにも無傷で(車に轢かれそうになっていたとの情報もありましたが)、ただ何も食べていなかったのか一回り小さくなっていました。
 
 最初は声が出ない子かと心配していましたが、逃走の事があって4日目に初めてももの声を聞きました。我が家を自分の家と認めたのでしょうか、今では素晴らしい番犬になりました。手の怪我は1ヶ月間毎日通院をしなければならず大変不便でしたが、これはきっと神様が片脚のないももの不自由さを私に教えるためだったに違いありません。
 以後は逃走事件を教訓として焦らないように心がけました。近所の人達は何かとももに声をかけて下さり、見守ってくれています。登下校時に毎日「ももちゃーん!」と言ってくれる子もいます。4ヶ月を過ぎた頃ようやく散歩に出られるようになりました。出会う人達は必ずと言っていいくらい「脚、どうしました?」と聞いて下さり、励まして下さいます。小さな子までが、ももが走っている姿を見て「あのワンちゃん頑張ってるネ!」と言ってくれたり・・・。そんな様子をももはじっと聞いています。ももはワンコが大好きです。向こうにワンコを見つけるときちんとお座りして待っています。ももは片脚が不自由ですが、周りの皆から温かい目で見守られています。私達はもものお蔭で多くの方々と知り合い、友達になりました。(もも効果と呼んでいます!)ももの友達犬もたくさん出来ました!車に乗れるようにもなり、今は散歩やドライブが大好きです。初めて獣医さんへ予防注射に連れて行った時、私の胸にしがみついてきました。母と思ってもらえたかと感激でした。診察台では吠えることもなく毅然としていたのには驚かされました。
 
 9ヶ月振りにアークに里帰りをしたももは、最初は緊張していた様子でしたが、オリバーさんやスタッフの方々に温かく迎えてもらってとても嬉しそうでした。全工程800kmの車の旅でしたが、この里帰りの旅のお蔭で私達とももの信頼関係は一層深まりました。
 幸せにしようと思ってももをいただいたのに、逆に私達が幸せな気持ちにさせてもらっています。「ももをもらって、本当に良かったです!」・・・・・この気持ちをお伝えしたくて。 
 
 



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